【ぶくパル】”「あり方」と「やり方」次第で生き抜く” 山下陽光さんトーク書き起こし
2018.01.18
山下陽光「バイトやめる学校トーク」
「あり方」と「やり方」次第で生き抜く
2018年1月7日(日)ぶくパルでは、イベントの一貫として、「途中でやめる」というリメイクのファッションブランドの代表で、昨年は「バイトやめる学校」という本を出版した、山下陽光(ひかる)さんを福岡からお呼びして、「バイトやめる学校トーク」を開きました。
ここにトークの抜粋を掲載いたしますので、ぜひお読みください。
なお、トークの内容は、草の根ささえあいプロジェクトの榎本が、再構成と編集を行いました。その際、録音の不備による文脈の補足として、山下さんの著作やブログ、Twitterでの書き込み等から補っている部分もありますので、ご了承ください。
スマホが普及して一対一の関係がどんどん重要になってきてる
こんにちは。
山下陽光といいます。「途中でやめる」というリメイクブランドをやっています。
あと、「バイトやめる学校」という本を出して、いかにつまんねぇバイトをやめて、好きなことして食っていくかっていう話なんですけど、そういうのは限られた人しかできないって思うかもしれません。そうじゃなくって、誰でもできるんだっていう話を、これからしたいと思います。
「途中でやめる」の服は、お店に卸すのもありますが、こうやって直売したり、ネットで販売しています。ネットは出品した途端に売り切れちゃいます。
人も雇ってますが、給料も払いまくってます。
毎食外食するんですよ、毎食おごってて、 そのうちその子も「これは何かおかしい!」みたいな感じになってて(笑)。
時給1100円なんですよ。
福岡で1100円って、なかなかなんですけど、いかに1500円にするか大会なんですよね、俺の中では。
あと、すっげー遊んでくれてますからね、娘と。
でも、それもこっちは助かるんで。
あげまくって、独立させないようにしてるんですよ。
今、こういう感じで前に座ってますけど、それってなんかこう、もう昔からあんま変わらないというか、1人の話をみんなが今聞いている。昔からあったやり方なんですよね。
でも、そうじゃなくて今の世の中は、一対一の関係が重要になってきてて、今までは僕ひとりがやって、たとえばみんなから1000円ずつもらって、30人いるから日給3万円 みたいな感じの稼ぎ方だったと思うんですけど。
一対一ということで考えると、僕がよく話す例で、以前父親が倒れて入院したことがあったんです。そのときに父親から「病室に新聞を持ってきてくれ」ということになって、それで毎日行くんですけど、車で下道だと40分かかるんですね。だから、往復80分かかっちゃう。ただ新聞を届けて「ハイよ」って言うだけなんだけど、これは500円でもいいし、2000円でもいいから、誰かやってくれる人がいたら絶対頼むのにな、と思うんですよね。
音楽で有名になりたいとか、洋服作りたいとか映画やりたいとか、そういうのはたぶんやりたい人めちゃくちゃいるから、食えない。たまたま病院の近くに自分が住んでて、みんなの必要なものを買って届けることができるというのは、それだけで食えるかどうかはわからないけど、金になる。
今ここにiPhoneが持ってんすけど、このiPhoneというかスマートフォンって、多分ここにいる9割以上の人が持っていると思うんですけど、これの登場で何だって一対一で売り買いできるようになったんですね。
それと、今1ヶ月に20万生活費がかかるとしたら、家賃安いところに引っ越すとか、いっそ家賃をタダにする方法を考えるとか、なんでもいいけど生活コストを下げると、そんなに働かなくても食える世の中になって来てるんです。
そういうことができるようになったのは、みんながスマホでひたすら検索して見るようになって、モノの売り買いもスマホで行うようになって、スマホがデパートみたいになったんです。その偉いやつが始めたデパートに商品を置いてもらうみたい感じのやり方になるんですけど、それをやってみようぜっていう本なんですよ。
で、そういう本とか働き方改革とか、いろんな人が「今すごいことなってるぞ」っていう本って、もう山のように出てるはずなんですね。でも、みんな言ってはいるんだけど、実際にやる方法は教えてくれない。
今日ここで買わなくてもいいですけど、この本読んだら、3000字で感想と自分の現状というか、できることを書いて送ってくれたら、文字数の等価交換でアドバイスをするっていうことをやってます。これも一対一ですね。
あと、この本の最後に書いてあるけど、読み終わったらメルカリに感想文付きで出品しちゃってください。今40冊ぐらい出品されていると思いますが、ほぼ全部売れてます。
定価1400円の本が1000円くらいで売れたら、実質400円ってことになりますから。
ユニクロダウンの上に着る服を俺は考えよう
服を作ってるから僕が服が好きかっていうと、まったく興味なくて、パジャマ以下、もう裸で暮らしたいって思うくらいで、じゃあこれでもいいじゃんって話なんですよね。
ユニクロのインナーベスト。
(バッグからユニクロのインナーベストを取り出して着用。さらにその上に服を着る)
めちゃめちゃ着心地いいんですよ。
もう中に着てるかなんて、わかんないじゃないですか、これで(笑)。
「ユニクロとかファストファッション、クソでしょう」
とか言いながら、ずっとこれで通してバレてないんですよね。
で、もう全然別にいいんですよ、これで。
それで調子に乗って、ユニクロのダウンジャケットも買ってみて……。
(いったんTシャツになり、ユニクロのダウンジャケットを着る)
これ着て街歩くと、おんなじ服着た人8人とか15人とかとすれ違って、
「いや没個性最高じゃねえかと、なに差異つけてるんだよ」
と思ったら、ユニクロのダウンって、これだったんですよね。
iPhoneと一緒なんだって。
(iPhoneを手に取る)
みんながスマートフォンになる前って、携帯アクセサリーに何千円も払ったり、いかに私は人と違うかというのを競ってたけど、今何もないっすよね、今。
俺のiPhoneと、安倍さんのiPhone、たぶんおんなじスペックですよ。
これって、少し前だったらありえないことなんですよ。
だって、今世界で一番お金持ちの人と、俺のiPhoneってたぶんおんなじモノなんですよ。
で、ユニクロも、それくらいスゴイことやったんだと思って。
「柳井よ、やるな」
と。服はもうこれでいいです、と。
じゃあ、どうしてやろうって思いながら、古着屋で、この全く暖かくない服を買ったんですよ、綿でできた。
これ着ただけだと寒いんで、下にダウン着てたら、これだなって思って。
(iPhoneをかざす)
この服ってのは、iPhoneケースだったんですよ、俺にとって。
だから、この、この上に着る服を俺は考えようと思って服を作ってます。
これはバイトやめる学校と関係あるかわかんないんですけど、最近黄ばみやシミの汚れ落としにハマってて、どうやったら汚れがキレイに落とせるが試したくってしょうがなくって、もう油汚れを落としたくてしょうがない病気みたいになっているんですよ。
娘と外食行く時も、わざと白い服着せて(笑)、トマトソースのパスタを食わせたりしながら、もう「こぼして欲しい!」って「アクシデント起きて欲しい!」って思ってて、こぼして服が汚れたらサイコーだし、こぼさなくてもやっぱりサイコーで。
だから、どっち側に転んでもいいような選択肢を俺作れるようになったな、と。
爆心地で溶けたガラス瓶を売ってたアトム書房
今回トークをするにあたって、「アトム書房の話をして欲しい」というリクエストがありました。
アトム書房ってのは、原爆が投下された直後の広島で、原爆ドームの目の前にできた古本屋のことで、そのことをいっとき調べまくってたんですね。
ちょうど震災と原発の事故があって、東京でデモとかやりまくったりしたんだけど、まぁその後九州の方に移住したんです。
そんで原爆とか原発とかについて調べまくってたら、写真が1枚見つかったんですね。
なんだこれは、と。
古本屋が1軒だけあって、今だと鉄腕アトムとかがあるから、アトムって悪い感じしないけど、アトムって、つまり原子力ってことじゃないですか?
スゲーテンション高くって、スゲー不謹慎で、なんでこんな店ができたんだって、検索しまくってたけど、ついにもうこりゃ広島行くしかねぇと思って、何回も行って調べてるうちに、いろいろつながりまくってるんじゃないのか?って感じになったんすよ。
で、調べてるうちに広島のダダイストで山路商という画家がいて、1944年に亡くなってるんですけど、山路商のまわりにはアーティストみたいな連中がたむろしてて、たぶんパルルとかの感じすごい近かったんじゃねぇかな、と。
アトム書房を始めた人も、広島のそういう界隈にいたやつのひとりで、原爆ふざけんなって気持ちで、「アトム書房」なんて名付けたに違いないんですよ。
そのアトム書房は、古本屋なんだけど古本は全然売れなかったらしくって、原爆で溶けてグチャグチャになったガラス瓶を売ったりしたら、そういうのがお土産として売れまくってたみたいで、もう原爆ふざけんなコノヤローって感じじゃないですか?絶対に負けねえぞって。
焼け跡で古本を売ってたら売れないかもしれないけど、そこらに落ちてた溶けたガラス瓶は、今で言うと放射性廃棄物なんですけど、あの時あの場所では売れたってことで、もう不謹慎かもしれないけど最高じゃないですかって話なんですよ。
売る側の都合ばかり考えていると沈没する
たとえば、馬の蹄(馬蹄)を作ってたメーカーとかって、自動車が登場したときに、めっちゃ文句言ってたと思うんですよ。
「世の中の人がみんな車に乗ったら、人が死ぬじゃねえか」
とか。
馬具メーカーが半端ない圧力をかけたと思うんですよ。
でも、実際に車の社会になって、馬具メーカーってもうほとんど残ってないわけですよね。
エルメスくらいしか残ってない。
エルメスも、「もう馬具じゃダメだ」なんて言って、「スカーフ作れ」とかってなっていったわけですよ、たぶん。
同じように、今すごい転換期に来てて、本とかでも作った出版社と本屋の都合だけみたいなのが、まかり通ってるんですけど、Amazonが送料無料で本を届けてくれる時代に、本屋さんは名古屋まで、栄まで、出て行く交通費とかを別に払ってくれるわけじゃない。
そりゃ、わかるんですけどって話で、本屋さんだったら、それ以上のことをやんないと、って話なんです。
本を出版すると、トークショーとかサイン会とかしませんかって話がいっぱい来ます。
ただ、それが本が出て1ヶ月後だったら、その1ヶ月分だけ俺は面白くなっているわけで、今日喋ったトークの音源がついきて「この本の先のこと」っていうのが、この値段で買えるんだったら、1冊買った人もまた買うかもしれない。
そういうことを考えないで、本が出たからってだけで
「トークショーやサイン会をやってください。ギャラはいくらいくらですが、交通費は自腹でお願いします」
なんて。
そんなことばっかやってる、もうマゾ大国みたいになってるんですよ、本とか出版って。
「あり方」と「やり方」を考える
だから、どんどんダメになってきてはいるんだけど、「あり方」と「やり方」を考えるっていうのは大事なんじゃないかな、と。
ご存知かもしれないですけど、Googleは世界中にデータセンターを持っていて、1日の中で夜の時間帯になる地域にどんどんデータセンターを切り替えているんです。
「Googleは月を追いかける」って言われてるんですけど、夜になると気温が下がって日中に比べて冷却するコストがぐっと下がるし、電気料金も夜のほうが安い。
世界の最先端だからこそ、地球や文明や自然に合っているんだと思うと面白いんですよね。
それと真逆に、「スケールの小さい金儲けが大好きです」ってプロフィールに書いている、裏モノJAPANっていう本の元編集者でライターの山野祐介さんっていう方が一番ヤバイ。
新規会員入会で何とかが無料!とか、ポイント還元キャンペーンとかを実践しまくったり。要はこれスマホを駆使したことだから、これ誰でもできちゃうことなんですよ。
でも、この手のキャンペーン情報を拾いまくって契約して即解約してみたいなのは、これは去年から言ってますけど、今年とかで終わりですんで、また何か面白い使い方で出てくると思うんですけどね。
IT革命だとか言われても全然意味わかんなかったけど、今みんなこれ(スマートフォン)持って、なんでもできるし、「あり方」と「やり方」次第だなって思うんですよね。
坂口恭平とか、松本哉とか、phaさんとか、5年くらい前になんかスゴイ面白い生き方をし始めた人たちがいて、「坂口恭平は出来ても、私には無理」みたいにみんな思ってたんですよ。
パルルでおととし直売会をしたときに、和歌山の山奥から来てくれた”山奥ニート”くんみたいに、(phaさんのように)「実は京大卒で」みたいなのがなくても、全然実践でやってますって人がけっこういるんです。
山奥ニート
1988年生まれ、名古屋市出身。子供の頃から将来の夢は「車寅次郎」。 関東の大学の教育学部に進学するが、教育実習をきっかけにひきこもりになり中退。ネットのニート友達に誘われ、2014年3月から2人でNPO法人共生舎の職員として和歌山県田辺市の限界集落に移住。ブログ、ネット生放送で一緒に住むニート・ひきこもりを募る活動が話題を呼び、現在では廃校になった小学校を中心に15人の若者が同じ集落に暮らしている。
ブログ:山奥ニートの日記
でも、何をしたらいいかわからないとか、何やりたいかわからないって人も多いと思うんですね。
そういう人は、自分が好きなこと、得意なことをいくつかあげてみてください。
現代社会では、好きなことにお金をかける場合がほとんどなので、商売にしていけることがないか手がかりにするわけです。
「得意なこと」、スペース「不便」って検索してみると、自分の好きなことで、いろんな人がいろんなことで困ってることがわかります。
好きなことでストレスを持っていた場合、お金を払ってでも解消したい、となればそこから商売が生まれる可能性がある。
「バイトやめる学校」やると、相談がめちゃくちゃ来るんすよ。
で、来る相談で「あなたは悩んでいるけど、その悩みはあの人の困りごとじゃん」ってことがしょっちゅうなんですよね。
だから、ホントはですよ、ここで「何が得意か大会」とかにしてもいいんですよ。
ここに集まった中で、「得意なこと」と「困っていること」を出し合って、それが交換できればサイコーだし、今日ここにはいないけど「それ、困ってる人を知っているよ」って話につながってもいい。
「困ってること」に対して、「特に好きではないけど、自分にとってそれは苦ではない」ってことだったとしても、そこから商売の可能性はありますよね。
なんかあるんですよ、だから。
さっき、俺が言った「油汚れを落としたくてしょうがない病気」も、白い服が汚れて困っている人だったら、金払ってでもキレイにしてくださいって話になるわけです。
金=信用というルールがいつまで流行ってんの?
資本主義とか、金ってのが、いまだにずっと流行ってんの?って俺は思っていて、金が流行んなくならないかなって。
世界の人気グッズランキングで、ずっと人気一位だったんですよ、お金って。
それはもうマジやってんのかって話じゃないですか。
「え、金持ってるんですか?」
ってなんないかなって思ってて、
「それ邪魔じゃないですか、持っときましょうか俺?(笑)」
とか。
たくさん金持ってそうな人、たとえば与沢翼がいたとして、与沢翼はめっちゃ金を持ってるけど、じゃあ信用はどっちか?って言われたら俺の方がいいって言う人も何人かはいると思うんですよね。
信用と金って言われて、今までは金=信用って世の中だったと思うんですけど、そうじゃなくなって来てるんじゃないか、と。
だって、金とセックスがずっと流行ってんのって古すぎないですかって話なんですよ。
自動車とか、流行んなくなったりしてるわけでしょう?
ってことはですよ。
てことは、
「ちょっとすいません、こっから先、お金持っている人は入れないんで(笑)」
みたいな感じになったら、どう考えても面白いじゃないですか?
90年代はレコード何枚持ってる、本何冊持ってるというような情報と物欲をいかに持ってるかがステイタスだったけど、ネットやGoogleの登場で情報を知ってることや物欲すら無くなったから、こんな感じでお金持ってることもダサいとか不要になる可能性もあると思います。
今日はどうもありがとうございました!
話し手:山下陽光(やました ひかる)
ハンドメイドファッションブランド「途中でやめる」主催。1977年長崎県生まれ。18歳で上京、18年間東京で過ごし、2013年に長崎県大村市に転居。2017年より福岡市在住。「バイトやめる学校」を全国各地で開催中。最先端の過去をガン見する「新しい骨董」のメンバー。ツイッター @ccttaa