【2021.1.24】地域共生社会を考えるイベントを開催しました(ご報告)
2021.02.02
一般社団法人草の根ささえあいプロジェクト(名古屋市)は2021年1月24日(日)、「地域共生社会実現のための研究会」と題してイベントを行いました。当団体としては初めてオンライン形式で開催し、全国から200人を超える方が参加しました。
研究会は2部構成で、第1部は、厚生労働省・地域共生社会推進室長の唐木啓介さんが基調講演し、今年4月より全国でスタートする地域共生社会づくりのためのさまざまな制度メニューを紹介。社会福祉法の改正により、市町村単位での①相談支援、②参加支援、③地域づくりに向けた支援」の充実が想定されていることや、従来の「課題解決のため」という目的に加えて「伴走型の支援」や「地域の気にかけあう関係性」にも期待を込めていることを解説しました。社会福祉法には新たに、多分野の支援者や地域の担い手が地域課題や個別の困りごとを話し合うプラットフォーム(重層的支援体制)の構築も定めています。
この事業は今年度、市町村の任意事業として始まりますが、2016年からモデル事業としてすでに展開している自治体もあります。基調講演では、地域課題を話し合う中で「介護サービスを受ける高齢者の働きたい気持ちをかなえ、労働力不足の課題の解決にもつなげたい」というプロジェクトが始まった福岡県大牟田市の事例や、高齢者の非緊急的な救急車要請という課題の解決とそこにある支援ニーズの汲み取りをかなえるため、消防署員への研修や消防職員の参加するネットワーク会議の開催につながった愛知県豊田市の事例などが紹介されました。
第2部は、上記の大牟田市を含め、認知症の方の豊かな生活のために必要な取り組みを研究・デザインしている慶應義塾大・大学院教授の堀田聰子さんがコーディネーターを務めるシンポジウムに。登壇者の根岸親さん(NPO法人自殺対策支援センターライフリンク副代表)は、「生きることの促進要因より、生きることの阻害要因が大きくなった時に自殺リスクが高まる。阻害要因を取り除くだけでなく、人とのつながりや楽しい思い出などの促進要因を促すことも大事」と話し、「新しいつながりが、新しい解決力を生む」というライフリンクのモットーを紹介して、地域共生社会での新しいつながりづくりに期待を込めました。
滋賀県東近江圏域働き・暮らし応援センター「Tekito-」センター長の野々村光子さんは、働くというトピックスが相談のハードルを下げ、「就活中」というステータスを与え、その人のかっこいいところを見つける視点が始まり、かっこいいところを見つけられる人を増やすという連鎖を紹介し、友達ではなく知り合いや気にしあう人を増やしたいという思いを語りました。基調講演の唐木さん、草の根代表の渡辺も加わってシンポジウムが進行する中、オンラインツールの「Q&A」機能から活発に意見や質問が寄せられました。
コロナ禍の現場で起きていることとして渡辺は、これまで危うさの少ない「青信号」が灯っていた子ども・若者が、経験や見通しを奪われたことで新しい課題が生まれており、一方で「赤信号」「黄信号」の子のように周囲や相談機関にSOSを出すことにも慣れていないため、急速にしんどさが増幅していると報告。地域の中で格好よく他人とかかわれる場所を増やし、課題を抱えたこの発見センサーを増やしていく必要について話しました。堀田さんも、認知症の方の支援現場で「本人が支援機関につながる前に(やりたいことを)あきらめてしまったり、支援機関がお客様扱いすることでその人の思いを引き出せないことがある」と紹介。本人の主体性を大切に、「認知症未来共創ハブ」という研究活動に取り組んでいることを話しました。
発見センサーとしては、ライフリンクや草の根が行っているSNS相談や居場所事業に加え、コンビニやガソリンスタンドなど地域で働いたり生活したりしている人みんなが発見センサーになり得ると、野々村さんは指摘。発見したあとのつながり方については、「地域性を知ったうえで手の握り方、握り続けるための方法を考えることが大事」と話し、「東近江では”世間体”や”ウワサ”が大事な人が多いので、企業間に(こんな人がいる、こんな支援機関がある、などの)ウワサを流した」と経験を紹介しました。
コロナ禍の影響として唐木さんは、「コロナがなくてもなんらかの支援が必要な人が、コロナをきっかけに人につながれることもある。その意味ではポジティブな側面がある」と指摘。根岸さんも、コロナやSNS相談などを通じて、「つながりにくい人とつながることができた」と話し、オンラインというツールを効率化の方向ばかりでなく、つながる機会として捉えなおすきっかけとなったことを話しました。
シンポジウムの途中では、野々村さんが「働いている私たちも別にキラキラしてませんよね?」と声を掛け、「弱いとか、暇なことというのはダメなことではない。弱いままでいいやん!8050問題と言われるけど、これも別に”問題”なんかじゃなく、”8050最高!”とでも言いたい」と共有する場面もあり、「困りごとを抱えて相談に来る人は、ちゃんと素敵さ、繊細さ、弱さ、ずるがしこさも備えている。これを知ったうえで、その人の物語を語れる語り部になっていきたい」と渡辺が話しました。オンラインの参加者は、支援機関や行政の方も多く、Q&Aの中では、「重層的支援会議」の方法など、実務的な視点での質問も多く寄せられました。