「すみません、検尿ってどうやるのですか?」
介護施設で働き始め、欠勤もなくなんとかやっているかな、と思っていた矢先に届いたメール。このメールで、彼女が生き延びてきた環境について改めて考えさせられ、胸が熱くなりました。
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ひとつは、本当に久しぶりに健康診断を受けたのだということ。社会保険に入って働くのは、30代後半の彼女にとって初めての経験でした。これまでは、支援施設でのカフェの仕事しかしたことがなく、国民健康保険の任意の健康診断を、受けるよう気にかけてくれる人も周りにいませんでした。
ひとつは、親切なようでわかりにくい検尿容器の使い方について、教えてくれた人がいなかったということ。多くを語りたがらない彼女の話をつむいでいくと、中学時代に母が家を出た後は父と二人暮らし。父とは会話はなく、あるとすれば怒られるばかりで頼ろうと思った事はないという関係です。
中学校も不登校だったため、検尿容器を使う、誰かにやり方を聞く、という“当たり前の経験”を積むことができずに来たのだと思います。彼女のガラケーからのSOS。今回応えることができ、彼女の「人を頼る力」に尊敬の念を抱きました。
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“当たり前の経験”をしてこなかった若者たちにとっては、人づき合いや働く場、手続きのひとつひとつがつまずきになってしまいます。インターネットの世界に聞いてわかることもありますが、個別具体的なこと、例えば「トイレが詰まったときにどこに電話すればいいのか」「スーパーのアルバイトの出勤日、どこに行けばいいか」などは出てこない。つまずきが多く自信をなくしてしまってからだと、次の傷つきが怖くて踏み出せないこともしばしばです。
やっぱり、「こんなこともわからないの?」と責められることも。「こんなこと、聞いてもいいのかな」「こんなこと、誰に聞けばいいんだろう」。そう思いながら数年を過ごしてしまうこともあります。
当たり前の経験をしてこなかったのは、家庭などの環境が理由であって彼女、彼らのせいではないことは明らかです。これからたくましく、周りを頼りながら経験を補っていく彼女たちの未来は明るいはず―――そう思いながら、メールを返信した日を忘れないでいたいと思います。