【若手座談会】優しさや温かさがふんわりと広がっていくように〜草Pの現場を支えるスタッフたち〜

[座談会メンバー]

岩本真紀…名古屋市子ども・若者総合相談センター 相談員(2020年入社)

大島泰子…名古屋市若者・企業リンクサポート事業 就労支援員(2020年入社)

山田和佳奈…名古屋市若者・企業リンクサポート事業 就労支援員(2022年入社)

和田瑛…名古屋市子ども・若者総合相談センター 相談員(2021年入社)

※聞き手:久野美奈子…NPO法人起業支援ネット 代表理事

――草の根ささえあいプロジェクトと出会ったきっかけを教えてください。

山田)草の根ささえあいプロジェクト(以下草P)が名古屋市から受託している、名古屋市若者・企業リンクサポート事業(以下リンクサポート)の就労支援員の求人広告を見たのが最初ですね。

前職は社会保険労務士事務所に勤めていたんですが、どうしても立ち位置として経営者の側に立つことになります。それも大事なんですが、本当は働いている人の役に立ちたいっていう気持ちもあって。当時の草Pのホームページに、いろんな方が自分らしさを活かしながら社会や企業につながっていったエピソードが載っていて、こういう外に向かっていくきっかけづくりをしたいなと思って応募しました。

求人サイトに、転職歴がたくさんあっても大丈夫とか、今までやってきたことが全部仕事の役に立ちますみたいなことが書いてあって心強かった(笑)。

和田)大学院生として修士論文に向けての研究のフィールドとして先生から紹介されたのがきっかけです。もともと、高齢者支援の分野で保健師として働いていたんですが、「専門職は助ける人、困っている人は助けられる人」という構図にモヤモヤしたものを感じていました。

自分自身、看護師になろうと思って学んでいた大学時代に命に関わる病気になって、助ける側になろうと思っていたのに助けられる側になったという経験があるんです。でも、そのとき、一方で、助けられる側の自分は看護を学ぶ友人たちにとっては格好の教材でしょう?っていう気持ちもあった。保健師として働く中で、お互いに助けて、助けられてという関係をもっと知りたい、深めたいと思って大学院に入ることにして、地域の普通の人の力みたいなものを研究対象にしようと思ったんです。

いくつかフィールドの候補を紹介されて、その中の一つだった草Pのホームページにあった「弱さでつながる」って言う言葉に惹かれました。最初は研究しながら、週に何回かオープン型交流スペースもいもいのアルバイトをするというところからのスタートでした。

大島)新卒からずっと同じ企業に勤めてきて、この先の人生を考えたときに少し違うことをしたいなと思っていたんです。そんなに真剣に転職活動をするというほどでもなくて、でもちょっといろんな求人票をちょっと見てたときに草Pの運営する名古屋市子ども・若者総合相談センター(以下こわかセンター)の求人票を見て、なんとなく直感で面白そうだから話を聞いてみたいと思って履歴書を送りました。

当時、人事部の管理職をしていたのですが、企業の判断基準で白黒つけていくようなところ…例えば採用の場面であったり、あと、社員一人一人にはみんなそれぞれ個別の背景があって、例えば体調の問題、家庭の事情、いろんな状況の中で働いているんですよね。でも会社としてはどうしても一律のルールで対応せざるを得ないところがあって。

そういう部分に違和感は感じていて、なにかそれとは違う人との関わり方ができるといいなと思ってた。面接のときに、こわかセンターの相談者さんが、地域の昆虫博士と出会ったことで新しいコミュニティに参加して世界を拡げていったエピソードを聞いて、すごくいいなと思ったことを覚えています。

岩本)わたしはずっと福祉の業界で仕事をしてきて、こわかセンターのことは知っていましたし、連携することもありましたが、その時は業務の上でつながっているという感じだったんです。でも、自分自身の状況として枠組みや時間に制限される働き方に息苦しさを感じていました。

福祉の仕事、就労支援の仕事は大好きだったので、転職も考えようかなと思って信頼できる人に相談をすると、なんだかいろんな人がこわかセンターを勧めてくれるんです(笑)。「岩本さんはもっと自由にやれるところの方がいいよね」「こわかセンターとかがあってると思う」って。それでだんだん自分でもその気になってきて、求人も出てない時期だったんですが、仕事でやりとりのあったこわかセンターの職員の方に話を聞いてもらうところからつながっての今です。

支援者の鎧をはずして相談者さんとともにある日々

――入社してみていかがですか?

岩本)相談者さんのためになることだったらなにをやってもいいという自由は本当にすごい。わたしは自由を求めて転職したはずなのに、ここまで自由なのかとはじめはちょっと戸惑いもありましたね。基本は「いいね、やってみよう」って尊重してもらえて、そんなにとやかく言われない。もちろん困ったときは周りのみんなに相談できますし。あと、かなり深刻で複雑なケースも多くて、それは外から見ていたときはわからなかった。

和田)1年間、オープン型交流スペースの運営補助アルバイトをして、無事に修論も出せて、2022年4月から相談員として働いているんですが、子ども・若者の支援って無限にバリエーションがあるなと思います。未来に向けての可能性が広がっているので、ものすごく選択肢も多いし、だからこそ難しい部分もある。以前働いていた高齢者支援の現場でも、もちろん一人ひとりが多様だったんですが、困りごとのバリエーションも、未来に向けての選択肢も、子ども・若者支援のほうが圧倒的に多いと感じています。

山田)わたしはいわゆる支援の仕事が初めてだったので、最初は支援する人として自分がしっかりしなきゃいけない、ちゃんとしなきゃいけないっていう焦りもあったんです。周りの先輩たちはみんなすごくて、結果も出している中で、自分も早くそうならなくっちゃって。でも、だんだんそうじゃないんだって気がついた。支援って思ったようにはならないことの連続過ぎて(笑)、その都度リンクサポートの先輩たちに話を聞いてもらいながら、人の人生に正解なんてないし、早くスムーズに就労することがいいとも限らない、全部がプロセスなんだから相談者さんと一緒にジタバタすればいいのかなって思うようになりました。

岩本)同僚や先輩たちと状況や気持ちを分かち合えるのって、本当に大事ですよね。自分がよかれと思ってやろうと思っていることが本当にいいのかどうか、長く支援の仕事をしていても、いつも迷いはあるんですよ。そんなときに「こんなことやってみたいと思ってるんだけど」って話ができて、自分の気持ちも受け取ってもらいつつ、「だったらこういう方法もあるよね」って上手く修正してもらえるのがありがたい。話すことでやっぱり気持ちが楽になるし、自分の考えもクリアになってくる。

大島)草P全体のものごとの進め方もすごく面白いなと思います。今までは、年間計画があって、予算があって、スケジュールがあって物事が進むのが当たり前だと思っていたけれど、草Pでは「これ必要だよね!やってみたい!やろうよ!」っていう感じで次から次へとプロジェクトが立ち上がって形になっていく。やりたいことを仕事としてやっていいんだ!って。

和田)自分は知識もまだまだ身につけないといけないし、キャラクターとして何かをぐっと引っ張っていけるタイプではないんですけど、相談者さんと一緒に悩んでぐるぐるしているときに自分自身も無理をせずに「自分としてここにいる」感じがある。仕事の鎧を着ないでいられるというか。

そこには無限に広がる世界があった

岩本)草Pのスタッフは、みんな、いろんなところと繋がるのが上手だと思う。草Pは自分たちだけで大きなことをやろうとはしていなくて、いろんなところと一緒になにかをすることを考える。巻き込み巻き込まれみたいな(笑)。そういう話が周りにいっぱいあるから、自分たちだけではできないことも一緒にやればできるよねって自然に思える。「そんなの無理じゃない?」って言われなくて、とりあえず誰かが「いいね!」って乗っかってくれる。

大島)草Pに入って、今まですごく狭い穴から社会を見ていたんだなって思いました。イメージとしては、戦国時代とかのお城の城壁にある鉄砲穴から外を見ていた、みたいな。ちょっと高い壁があって、社会と自分は区切られていて、ある意味こちらは守られていて、その壁の上の方に空いている小さな穴から外を見ていた。でも、この仕事をするって、そこから外に出るっていうことだなって。そこから外に出て、壁が全部取っ払われたら、すごく広い草地が広がっていて、世界に色がついた。色味が明るくなったっていう感じなんですよね。

山田)今まで世の中の基準みたいなものにどう当てはめるかっていう枠の中で判断することをずっとやってきたんですよね。今はよくも悪くも枠がないっていうか、その枠の中だけで本当に判断できるものなのか?っていうのを考えられるようなった。だから怖くもある。世界が広がった分、どこから何が飛んでくるかわからないし、自分が後ろからどう見えているのかも気になるし。でも自由になったなって。

和田)その広がりと怖さの中に、日々の自分たちの現場と、例えば調査研究とか政策みたいなものが混在しているのが草Pのフィールドなんじゃないかなって思うんです。今までは日々の具体的で地道な業務とか相談者さんの困りごとと、研究とか政策って切り離されたところにあると思っていたのが、草Pで「できることもちよりワークショップ」をいろんな人とやっていくことで、ちゃんとつながっている、地続きなんだと実感することができています。

大島)自分たちがやっていることがそうやって社会につながっている、そういうところに関われていることにほっとするような。目の前の一人の人と丁寧にかかわっていることが未来にもつながっているっていう意味を感じられる。

自分自身に手を抜かず、柔らかにつながりながら

――みなさんが感じる「草の根ささえあいプロジェクトマインド」ってどんなことですか?

和田)自分にとっての草の根マインドっていうのは「ありのまま」。相談者さんを変えていこうとするのではなくて、相談者さんはすでに十分素敵なんだっていう前提に立って、そこを見出そうとする。そのためには自分も鎧を着たままではいられない。そこはこれからも大事にしていきたい。

岩本)自分のことを「相談員」だって思うことはそんなにないんですよね。一生懸命話を聴こうとするその辺のおばちゃんくらいの感じで(笑)。でも、草Pにくるまでは、やっぱり「こうしなきゃ」「成果出さなきゃ」みたいな鎧を着てたと思うんです。自然な感じでいられる場所っていう感覚があります。自分が鎧を着ていると、鎧を着た人にしか出会えない。固い関係性にしかならないんですよね。ここでは柔らかい関係性を意識しているかな。

山田)「わたしにできるすべてをフル活用する」っていうのはある。後悔しないように、まず自分という資源をフル活用する。その中に人に頼ることや大騒ぎをすることや(笑)、関係機関に協力してもらう、みたいなこともラインナップとしてあって。自分自身に手を抜かないことはやってるかなって思いました。でもそれは疲れることでもあるので、オフはオフで大事にしています。

大島)わたし自身の人生のベースに草のイメージがある。草っていうのは、普通にその辺に生えているもの、いつも変わらずそこにあるもの。いろんな人がそれぞれに面白いと思っていることを小さく花開かせて、それがタンポポの綿毛のように緩やかに飛んでいくことで、優しさや温かさがふんわりと広がって繋がっていくといいな。スタッフ全員でそのイメージを共有できていることが嬉しいなと思っています。